a レジオネラによる感染症はいつ頃発見されたのですか?
1976年の夏、米国フィラデルフィアのホテルで開催された在郷軍人会の参加者やホテル周辺の通行人などに原因不明の重症肺炎が集団発生し、罹患者221名のうちの29名が死亡したことが報告された。米国の疾病管理センター(Centers
for Disease Control and Prevention, CDC)が行った原因調査によって、この肺炎はこれまで報告のなかった細菌による感染症であることが明らかになり、在郷軍人病と称されるようになった。この在郷軍人病の原因菌が後にLegionella
pneumophila(レジオネラ ニューモフィラ)と命名された。
b フィラデルフィアでレジオネラ感染症が集団発生した原因は?
感染経路は十分に解明されているわけではないが、レジオネラは土壌中に生息し、粉塵とともに空調用冷却塔水やその他の人工的な水環境に混入して増殖する。米国などにおける集団発生の疫学的調査でも、感染源としてレジオネラが多数生息していた空調用冷却塔水が疑われ、ここから飛散したエアロゾルによって感染したものと推定された。
c レジオネラによる感染症はどのようなものですか?
レジオネラが原因で起こる感染症はレジオネラ症と総称されている。レジオネラ症はその臨床症状から肺炎型と風邪様のポンティアック熱型に大別される。フィラデルフィアで起こった在郷軍人病は肺炎型のレジオネラ症である。これまでの報告例では肺炎型がほとんどであるが、ポンティアック熱型のレジオネラ症の集団感染も知られている。
d 肺炎型のレジオネラ症はどのような臨床症状ですか?
肺炎型では、初発症状は全身倦怠、易疲労感、頭痛、食欲不振、筋肉痛など不定の症状で始まる。通常、咽頭痛や鼻炎などの上気道炎症状はみられない。喀痰はほとんど出ないが、数日後に膿性痰の喀出がみられるようになる。発病3日以内に悪寒を伴って高熱を発する。精神・神経学的異常の出現は本症の特徴とされ、全経過を通じて、逆行性健忘症、言語磋趺、傾眠、昏睡、幻覚、記憶力低下、四肢の振せん、頚部硬直、小脳失調などがみられる場合がある。胸部に異常陰影が出現してからは重篤感があり、適切な治療がなされないと発病から7日以内に死亡する例が多い。
e ポンティアック熱型の臨床症状はどのようなものですか?
ポンティアック熱型では、主症状は発熱で平均38時間の潜伏期の後、悪寒、筋肉痛、倦怠感、頭痛で発症し、6〜12時間以内に悪寒を伴った発熱が出現し、胸部X線上胸水の貯溜がみられることがあるが、肺炎像はみられない。その他の症状として悪心、下痢、腹痛、関節痛及び咽頭痛などの上気道炎症もみられている。多くの患者は5日以内に無治療で回復するが、基礎疾患を有する患者では治癒が遅れ、健忘症や集中力低下などの症状が数カ月続くことがある。死亡例の報告はない。
f レジオネラ症はどのようなヒトが罹りやすいですか?
レジオネラは発見当初、病原性の強いものと考えられていたが、最近では、健康な成人が発症することはまれで、幼児や高齢者、あるいは入院患者等の免疫力が低下しているヒトが罹患しやすい日和見感染菌の一つとして認識されている。
g 諸外国におけるレジオネラ症の発生状況は?
米国においては1976年の集団発生(フィラデルフィア、221名が罹患し、29名が死亡)が最も有名な事例である。米国以外では、1985年4月から5月にかけてロンドンの北西約200kmにあるスタフォードで最大の集団発生が起こった。この事例では急性呼吸器感染症のため158名が入院し、36名が死亡した。患者は主として高齢者で、その大多数が十数kmの範囲内に居住していた。
1988年にはロンドンのポートランド地区にあるBBC放送本部とその周辺で集団発生が起こった。このときはBBCの冷却塔が原因であることが疫学的に立証され、翌年にはBBCに対して罰金刑の判決があった。また、1989年にもロンドンで2件の集団発生が起こっている。
この他、スペイン、カナダ、フランス、ポルトガル、オランダ、スイス、オーストラリア、イタリアなど、世界各地からレジオネラ症の発生例が報告されている。
h 我が国でのレジオネラ症の集団発生状況は?
厚生省レジオネラ症研究班が行った全国調査によると、1979年から1992年までの14年間に発生したレジオネラ症は86例で、日本全国に分布していた。これらはいずれも散発例で、フィラデルフィアやロンドンのような大規模な発生は認められなかった。しかし、1994年8月、都内の民間研修施設で罹患者45名を出すポンティアック熱の集団感染が発生し、原因はこの施設の空調用冷却塔水であった。肺炎型のレジオネラ症の集団感染は、1996年7月、都内の病院において新生児3人がレジオネラの院内感染で肺炎を起こし、そのうち女児1人が死亡する事態が報道された。その後、静岡県内のレジャー施設の温泉利用客23人が感染し2人が死亡(2000年3月)、茨城県内の総合福祉施設で入浴した45人が感染し3人が死亡(2000年6月)、等の事件があった。最近では宮崎県内(2002年7月)や鹿児島県内(2002年8月)の入浴施設で死亡者を出す集団感染があり、特に宮崎県内の集団感染事件は2002年9月現在で7人が死亡、確定感染者数32人、感染の疑いのあるもの250人以上という大規模なものとなっている。
疥癬感染防止マニュアル
原因など疥癬の性質を知り、疥癬感染症を治療し二次感染の予防に努める。
1. 原因
疥癬虫(ヒゼンダニ、大きさ0.2〜0.4mm)がヒトの皮膚内に寄生することによる。疥癬虫の雌(♀)は皮膚に取り付くと10〜40分で角質内に侵入し、表皮角層にトンネルを掘り、そこに1日2〜3個の卵を生み続け、4〜5週間で死ぬ。
卵は3〜4日で孵化し、14〜17日で成虫となり、4〜5週間の寿命を終えるまで10〜25個の卵を産む。疥癬虫は人体を離れると短期間で死ぬ。
通常疥癬は密なヒトとヒトの接触により感染するので、疥癬患者との直接接触や長期間寝起きを共にする場合、又疥癬虫や虫卵を内包している患者から落屑(ふけ)が飛散している部屋、病院、各種施設に出入りする医療従事者、介護者、掃除係や家族などを介して、あるいは落屑が付着している大型寝具、リネン類、医療器具、介護用具などを介して感染する。
疥癬虫が体表から離れた場合には、25℃・湿度90%で3日間、25℃・湿度30%で2日間、12℃・高湿度で14日間生存可能。50℃では湿度に関係なく約10分間程度で死ぬ。
2.病型
● 通常の疥癬の場合:隔離の必要なし
● ノルウェー疥癬:隔離の必要あり
感染力が極めて強い重症型の疥癬で、寄生する疥癬虫は通常の疥癬と同じヒゼンダニだが、その数が100万〜200万匹と桁違いに多い。
老齢、悪性腫瘍末期、重症感染症、栄養状態が悪いなど、免疫力が低下している患者や、免疫抑制剤やステロイド剤を投与されている患者に発生しやすい。疥癬と診断がつかず長期間ステロイド外用剤による治療を受けつづけた場合にもノルウェー疥癬となりうる。
特徴的なのは皮膚症状で、骨の突出した部位や四肢の関節の外側など圧迫や摩擦を受けやすい場所に、カキ殻状に重なった厚い角質の増殖が生じ、その中にはダニが層をなして生息している。
3.症状
「かゆみ」は通常最も顕著な症状である。一般的には「かゆみ」は夜間に最も著明となる。「かゆみ」の自覚は、感染後2週間以上、通常1ヶ月経ってから認められるが、再感染の場合には比較的短期間のこともある。
腹部、腋窩、大腿部の紅色小丘疹、外陰部の赤褐色の小結節、手や指の小水疱、疥癬トンネルを特徴とする。ノルウェー疥癬では牡蠣殻状の厚い鱗屑を特徴とする。
4.診断
皮疹をメスで削り取り、KOH法で検鏡。虫体・虫卵を検出すれば確定する。
5.対処法
入院の受け入れ時
入院のために来院された全ての患者に対して、全身皮膚の観察を行うか、又は本人、家族あるいは介護者に「かゆみ」があるか発疹や発赤の有無を聴取する。
疥癬発症かまたは疥癬を疑われた場合は速やかに主治医に報告し、皮膚鏡検を行い疥癬虫または虫卵の有無を確かめる。
6.治療
(具体的治療法は疥癬処置マニュアルで記載。)
*薬剤使用上の注意
薬剤を不必要に使用しない(量・期間)。(疥癬虫のライフサイクルは約2週間)
湿疹様変化を生じても虫体や卵が生存している内はステロイド外用剤は使用しない。
かゆみが激しい時は抗ヒスタミン剤の内服を使用する。
角質軟化作用のある10〜20%尿素軟膏(ウレパール・ケラチナミン等)の併用も効果的である。
* 予防的治療
オイラックス軟膏を連続7日間、入浴後身体を乾かし頚部から下全身に塗布する。
六一〇ハップ浴:キャップ1杯=約7g
・ 入浴の場合:お湯180Lに対し13〜17gの原液を入れる。
・ 塗布法:原液を5倍に薄め患部に塗布する
・ 湿布法:原液を50倍に薄め湿布する。
社団法人 岩手県医師会
疥癬処置マニュアル
皮膚科処置
・ 介護者の服装
出来ればつなぎ服、出来なければ使い捨てガウンを着用。(ガウンをつるして複数回数使用は表から裏に疥癬虫が入り込むので危険)履物は、軍足のような靴下を履きサンダルに履き替え処置後直ちに熱湯消毒。
・ 処置
入浴できる人は極力六一〇ハップ浴を行う。
六一〇ハップ液(お湯1Lに六一〇ハップ1.5ml)で清拭し
1日目:1%γBHC軟膏を首から下全身にくまなく塗布する。→6時間後入浴して洗い流す。
2日目〜7日目:オイラックス軟膏を同様に塗布する。→24時間後入浴して洗い流す。
8日目〜14日目:同上を繰り返す。
外用剤(γBHC軟膏・オイラックス軟膏など)の塗り方は、首から下全身に満遍なく・塗り残しなく・皮疹部だけでなく全体に塗ることが大事。特に腋窩・首・鼠径部・陰股部にたっぷりと。 処置は必ず手袋をはめて行う。1回の薬剤使用料は20gを限度にする。
硫黄剤使用のため皮膚があまりにがさがさして痒がる時は、一時硫黄剤の使用を休み、白色ワセリンなどで皮膚を休ませる。但し、硫黄剤を使う以上はある程度のがさがさは覚悟。角質が剥がれ落ちて疥癬虫が早く落ちることも治癒を早くするための一法。
頭はスミスリンシャンプーを使用。
頭部はあまり侵されないが、鱗屑が入り込むことを考えて施行する。
処置終了後
カーテン、床にダニアーススプレイ噴霧。退室時足元に駆虫スプレー噴霧。
処置を行った看護婦さん等は、γBHC軟膏を塗布する。妊娠中の看護婦さんはγBHC軟膏は避ける。
勤務終了時は、白衣、予防衣はロッカーに入れない。毎日交換する。靴にも殺虫スプレーを噴霧する。
院長室を含め、特に絨毯の部屋は一見離れていて関係ないように見えても念のため駆虫処置(バルサン・ダニアースなど)を行う。(靴によって疥癬虫が運ばれる可能性あり)
患者さんには私物を出来るだけ少なくしてもらう。出来る限り処分する。
掃除婦さんへの啓蒙も必要。
モップ・雑巾は、80℃・10分間で消毒後乾燥。
お掃除はすぐ終わるなら素手で良いが、長時間・広範囲の場合はガウンテクニックが必要。
床頭台・ドアノブ・処置台などはアルコールあるいは2,000倍六一〇ハップ液にて清拭。
スミスリンパウダーをベッド周辺に撒布するのも一法。
疥癬虫検査の簡便法として皮疹の周囲をぺたぺたとセロハンテープで貼ったり剥がしたりして疥癬虫を集め、KOH(ズーム液)を少量たらしたスライドグラスにセロハンテープを貼り付けて鏡検する。
社団法人 岩手県医師会